眠りのゼミナール 「ベッドルームの灯り」

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眠りのゼミナール
「ベッドルームの灯り」

 

子供の頃は夜の闇が怖かった。そんな記憶はありませんか? 
それはただ単に暗闇が怖いというものではなく、何故か漠然と眠ることと死ぬことがどこかで繋がっているのではないかという観念が無意識のうちに形作られていたからではないでしょうか。

 

ギリシャ神話に登場する原初の神、夜を司る女神「ニュクス」には、眠りの神「ヒュプノス」、夢の神「オネイロス」、そして死の神「タナトス」「モロス」らの息子がいました。
ニュクスが地上に夜をもたらすとき、ヒュプノスは彼女に付き従い、人々を眠りに誘います。死の神である兄タナトスの非情さとは対照的に、ヒュプノスは心優しい性格で、人の死もヒュプノスが与える最後の眠りと言われています。

 

私はホテルに泊まるとき、繁華街のネオンが目につかない限り、カーテンを開けたまま寝ます。大抵ホテルのカーテンは遮光性が高いもので、朝になっても部屋は明るくなりません。カーテンを開けると、夜中でも月明かりだけで部屋の中のものの輪郭はぼんやりと掴むことができます。何よりも空が徐々に白み始め、朝になって行く感じが好きな私には、どうもあの遮光カーテンが苦手なのです。

 

東日本大震災からしばらくの間、東京とその近郊では計画停電が実施されました。さらにその後も電灯の数を減らしたり、エアコンの設定温度を上げたり、省エネ対策を個人レベル、会社レベルで取り組んでいました。これにより誰もが電気の有難味を知る一方で、これまでの生活の中には必要以上の明るさや過剰なまでの冷房温度のサービスがあることを実感したと思います。残念ながら、今では徐々に薄れつつあります。

 

海外を旅すると、このような過剰なサービスはほとんどありません。
夜の街は必要最低限の明かりだけです。明るさが犯罪の抑止力に繋がると訴える方もいます。確かなことでしょう。しかし夜なのに煌々と明るくし過ぎることで、かえって暗い部分を生み出してしまっていることもあるのではないでしょうか。
海外ではレストランも街と同様に、必要最低限の明かりによる演出がされています。
テーブルごとに置かれたロウソクの灯は、料理をおいしく見せるだけではなく、テーブルとテーブルの間にできる暗い部分が壁の役割をしています。そのためテーブルごとにプライベートな空間を作り出せるのです。
さらに家の中も同じです。天井には日本のようにシーリングライトはありません。低い位置にセットされた照明。目線よりも少し上にセットされた照明やロウソクの灯りが、単一的でない創造性のある空間を演出しています。
これらは欧米の伝統文化であって、日本では受け入れられないものなのでしょうか?
そんなことはありません。かつての日本家屋は障子戸から入る外光の取り入れ方がとても上手でした。月の明かりを愛でながら、ぼんやりと揺らぐ行燈の灯りで夜を過ごす。手元に明かりを寄せて針仕事をする。外から聞こえてくる風の音や虫たちの音色。こんな素敵な暮らしを日本人は脈々とDNAに受け継いで来ているはずなのです。

 

さて、ではベッドルームの明かりはどのようにすればいいのでしょうか。
日中、目と頭と身体を酷使してきたのですから、煌々と照らし出す明かりはベッドルームには必要ありません。部屋の隅にほんのり灯る照明と、本を読んだりするための手元明かりだけで実は十分です。
そうすることで自然と入眠へ導かれていくことになるからです。
さらに追加するなら、天井へのアッパーライトをセットすることで、幻想的な光が壁や天井に反射し心がまどろむことができます。光源は直接見えないので、目にも優しいです。そして何より、これらの光によって生み出される影こそが、空間に深みを持たせ、心をリラックスさせる手助けとなるのです。

ベッドルームの演出は照明を工夫するだけでがらりと変わります。
ベッドルームの模様替えは家具の移動がしにくいことから難しいと思いがちですが、照明を替えることで簡単に寛ぎの空間へと変身させることができます。是非チャレンジしてみて下さい。
それからレースのカーテンで朝を迎えることも試してみて下さい。昔の人たちのように、陽が昇って目覚める、ほんの些細なことですが、これが人間の自然な姿なのではないでしょうか。

次回は「一日の疲れを落とす入浴」についてです。

 

<今日のポイント>

照明は明るい場所を作るのではなく、影を作ることで空間に深みが生まれる!


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